飲食店の注文から決済、顧客管理までを一元管理。「Camelシリーズ」の成長戦略を語る | tacoms ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ
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2024年、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は、飲食業界支援サービスを複数展開する株式会社tacoms(以下「tacoms」)への出資を発表しました。
tacomsは、タブレット1つでデリバリーやテイクアウトサービスからの注文を一括管理できる「Camel」や、テイクアウト・デリバリー予約ができる自社の注文サイトを構築する「Camel Order」などの「Camelシリーズ」を展開するスタートアップです。本投資を通じ、株式会社NTTドコモ(以下「ドコモ」)とは、dポイントを中心とした共創を見込んでいます。
Camelシリーズの内容は。競合他社と比較した際の優位性は。NDVから投資した理由や共創の詳細は。tacoms代表の宮本晴太さんと、同社への投資や共創を担当するNDVの寳野太貴に話を聞きました。
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飲食店がオールインワンで注文から決済、配達まで管理できる
── tacomsが提供するCamelシリーズについて教えてください。
宮本(tacoms):
tacomsは飲食業界向けにオンライン注文・デリバリービジネスを展開するスタートアップで、飲食業界に特化したバーティカルSaaS「Camelシリーズ」を提供しています。

株式会社tacoms 代表取締役CEO
2018年東京大学入学。株式会社Wizleap、株式会社VARKなど複数のスタートアップにてマーケティング・エンジニアリング業務に従事。2019年5月に株式会社tacomsを設立。
宮本(tacoms):
Camelシリーズの内、「Camel」はデリバリー注文一元管理サービスです。飲食店が連携するUber Eatsや出前館といったデリバリー・テイクアウトサービスからの注文を、店舗にある1台のタブレットで一括受注管理できます。
また2024年11月には、飲食店独自のデリバリー・テイクアウト注文サイト立ち上げを支援するサービス「Camel Order」をリリースしました。
「Camel」「Camel Order」を含めCamelシリーズは、スマホなどからのデジタルオーダーと店頭の注文を一元管理し、それを基幹システムと繋ぐ役割を担っています。つまり、Camelシリーズの導入により、飲食店は店舗の注文受注から商品のデータの入庫や欠品、在庫の管理など、全てのオペレーションが全く同じUI/UXで実現できるようになるのです。
「Camelシリーズ」は引き続き、オンライン注文やCRM(顧客管理)機能など、様々なプロダクトを展開していく予定です。
── Camel Orderでは自前の注文サイトを立ち上げられますが、デリバリーはどうするのでしょうか。
宮本(tacoms):
Camel Orderは自社オリジナルの注文サイトを構築するサービスで、管理画面から各種設定・メニュー登録さえ行えば、注文から事前決済までができるようになります。しかし飲食店が自前で配達員を確保するのは容易ではありません。そこでCamel Orderは、Uber DirectやWolt Driveといった配達代行サービスと連携し、飲食店がデリバリーを外部委託できるようにしました。つまりCamel Orderを使っていただければ、オールインワンで注文から決済、配達までできるようになる、というわけです。
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── Camelシリーズはどのような顧客が使っているのでしょうか。
宮本(tacoms):
2024年12月現在、全国で1,000以上の店舗を抱える大手チェーン企業様から地方の1店舗の個人店様まで、全国9,000店舗以上の飲食店で使われています。最北端は稚内、最南端は石垣島に導入店舗がありますね。Camelはファストフードやファミレス、カフェ、居酒屋、ラーメンなど、どのような業態でも同様に利用できるため、幅広い種類の飲食店に導入が進んでいます。宅配・持ち帰りがある店舗なら「Camelシリーズを入れておけば一通りの課題は解決する」という状態になれていますね。
競合と比較した、tacomsの競争優位性
── NDVがtacomsに出資した経緯を教えてください。
寳野(NDV):
tacomsの既存株主から紹介いただいて、宮本さんとお会いしました。でも「オーダーの一括統合」というのは、みんなが知っている派手な事業エリアではありません。正直、私も当時は詳しく知りませんでした。でも話を聞いてみると、tacomsはかなりの実績を叩き出しているし、当時はまだ構想中だったCamel Orderもあれば、競争の激しい飲食店向けのDX市場において、しっかりと成長していけると考えました。しかも今後もまだまだサービスを追加していくと宮本さんは言います。競合も多く難しい市場だと考えていた中でも、成長期待を強く感じ、投資を決めました。

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment Manager
東京工業大学大学院技術経営修士卒業後、株式会社NTTドコモに入社。入社後は岐阜支店において、ドコモショップ向けの販売コンサルティング業務に従事したのち、本社マーケティング部にてモバイル通信事業に関する中期戦略の策定や新規アライアンスサービスの立ち上げなどに従事。2021年4月にNTTドコモ・ベンチャーズ参画。
── 類似サービスもある中で、tacomsのどこに強みを感じたのでしょうか。
寳野(NDV):
他社でもCamelシリーズと同じ機能をもつプロダクトは、その気になれば開発できると思います。しかし基幹システムとの連携だけは、上手くいかないでしょう。これがCamelシリーズの競合優位性だと考えています。
宮本(tacoms):
寳野さんの言う通りです。店舗の基幹システムやPOSのシステムとの連携は、当初の想像以上に重要でした。というのも、特にエンタープライズ企業では、ここを起点に会計が始まるように業務が設計されていますし、基幹システムには商品や店舗データも入っている。そのため、あらゆるデータを使って飲食店をサポートしようとすると、基幹システムとの連携は不可欠だったんです。
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宮本(tacoms):
そこでtacomsでは、基幹システムを開発している会社とのアライアンスやパートナーシップに力を入れ始めました。結果的にこれが現在のtacomsの資産にもなっていると感じていますし、お客様への営業活動や資金調達のためのプレゼンでも評価いただけるポイントとなっています。
寳野(NDV):
宮本さんはまだ若いのに、基幹システム開発会社との提携をやりきれているのがすごいと感じました。前述の通り、既に9,000店舗でサービスが使われるに至っていますし、そういったバイタリティも宮本さんが率いるtacomsのすごい点ですよね。
宮本(tacoms):
ありがとうございます。導入店舗の拡大も、実は基幹システムを提供している会社とのパートナーシップが影響しています。というのも、実は連携している基幹システム開発会社のクローズドな顧客向け展示会でCamelシリーズを紹介させてもらい、一緒に顧客に提案したりしているんです。そういう意味でもパートナーシップは確実に我々の優位性に繋がっていますね。
win-winを築く、dポイントでの共創プラン
── tacomsとドコモグループは、どのような共創プランを描いているのでしょうか。
寳野(NDV):
端的に言うと、dポイントやd払いとの連携です。dポイントは2015年に提供を開始しており、各業界への営業はある程度一巡しています。もちろん飲食業界もその一つです。そのためドコモとしては、さらなる取扱先開拓のために新しい武器が欲しいという状況にあります。その点、Camel Orderを導入した店舗がdポイントを扱えるようになれば、ドコモとしても嬉しいというわけですね。
宮本(tacoms):
Camelシリーズは飲食店が既存のオペレーションを変えずとも、デジタルの様々な注文をワンプロダクトでカバーできるようになっています。そうすると今度は、デジタルに対応した顧客管理やマーケティングの必要性が高まってくる。dポイントやd払いは、それに対処するための戦略の一環です。
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寳野(NDV):
Camelは飲食店の業務を効率化するサービスですが、Camel Orderは飲食店の売上を上げるものです。そこにdポイントを使えるシステムを組み込められれば、販促支援などのソリューション提供による売上アップにもさらに貢献してくれるはず。このパートナーシップにより、飲食店向けにより価値提供が実現できる座組みになっていると思いますので、ぜひ実現していきたいですね。
宮本(tacoms):
ここ10年ほどで店頭でのキャッシュレス決済が進み、ポイントを貯めるために消費者がスマホを提示する場面が増えてきました。しかしどのプレイヤーに話を聞いても、オンラインではまだまだポイントの活用が進んでいないようです。ドコモにしても、ECにおけるd払い決済や、dポイントを使ってもらう・貯めてもらうことは、まだまだ開拓の余地があると聞いています。飲食は対面の比率が高い業態ではありますが、それでも徐々にモバイルオーダーなどのデジタルの注文・決済は増えているので、NDVからの投資を通して、ドコモにもそういった価値を提供していきたいです。
寳野(NDV):
ECやオンライン側の利用も増やしたいし、そちらをきっかけにさらにリアルも取ってこられるという座組みは、意外と珍しいというか、面白いなと感じています。
ただ我々の方で社内調整に時間がかかってしまったのは申し訳なく思っています。すみません……。
宮本(tacoms):
いえいえ。確かに時間はかかりましたが、寳野さん達が社内のキーパーソンを連れてきてくれたり、どこのチームとならシナジーが発揮できそうかといったことを調べてくれたりしたのは助かりました。我々は当初から「dポイントやリテール関連の事業部と組みたい」と言っていましたが、実際にはd払いも含め、幅広くグループ会社とシナジーが発揮できそうな提案をいただいて、最初の構想より共創の幅が広がって、結果的によかったです。
── 今後の共創としてはどのような可能性がありますか?
寳野(NDV):
Camel シリーズを使うには店舗でタブレットを使う必要があるため、ドコモグループの中核である通信事業とのシナジーもあると思っています。回線と併せてソリューション化の販売連携など、より基本的な部分の連携も模索したいです。
宮本(tacoms):
飲食店は電話での問い合わせなど、ソフトウェアだけではカバーできないオペレーションもたくさんあるんです。そのためCamelシリーズでは将来的に、BPOにも対応する必要があると思っています。とはいえコールセンターやサポートセンターをtacomsが自前で用意するのは短期的には難しい。一方NTTグループにはコールセンターやサポートセンターを扱っている会社があるので、そういったところとの共創もディスカッションしたいですね。
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CRM、販促・マーケティング機能も高め、飲食業界のユニコーンに
── 最後に、tacomsの今後の戦略について教えてください。
宮本(tacoms):
国内の飲食市場は、約50万の店舗があり、300万人〜400万人が働き、年間25兆円近い流通があると言われる巨大なマーケットです。一方、日本とアメリカの飲食店数は同じ程度と言われており、国内の飲食店は非常に激しい競争にさらされています。逆に言えば、この厳しいマーケットで戦えているお店は、グローバルで見ても高い競争力を誇れる可能性を秘めていると言えるでしょう。
そんな飲食業界で、現在の最大の課題は何と言っても人手不足。とにかく人が足りないんです。サービス力は高くてもデフレで価格が上がらず、利益率も上がらない。だから人件費の水準も低くなり、採用もできない。そのためこの市場では、飲食店を訪れるお客様の満足度を下げずに、より少ない人数・オペレーションでビジネスを継続できるサービスが求められています。
そんな中tacomsは、まずはテイクアウト・デリバリーの文脈で店舗のオペレーションを支援してきました。今後は店舗内のオペレーションや注文、会計などのデジタル化・省人化を手掛けたいと考えています。モバイル・デジタルオーダーに始まり、決済までをワンプロダクトで提供し、同時にそれらとセットとなる顧客管理やCRM、販促・マーケティング機能を高めていく予定です。
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宮本(tacoms):
またグローバルでは、飲食向けソリューションやデリバリーを提供しているスタートアップが次々に登場しています。外食産業なら日本でも時価総額1,000億円を超える会社は作れると考えていますし、日本を超えて世界で戦えるとも思います。
飲食業界のオンライン注文・CRMをマルチプロダクトで支え、結果として日本の飲食産業をグローバルで競争力のある産業にしていきたいですね。
寳野(NDV):
NDV・ドコモとしても、引き続き応援していきます。一緒に頑張っていきましょう。
宮本(tacoms):
はい、よろしくお願いします。
── 宮本さん、寳野さん、本日はありがとうございました。
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(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)