健康管理用スマートリング「SOXAI RING」の睡眠データに着目。カスタマーサポートなどのビジネス支援も | SOXAI ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ
2024年、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は健康管理用スマートリング「SOXAI RING(ソクサイリング)」を開発する株式会社SOXAI(以下「SOXAI」)への出資を発表しました。
SOXAI RINGは生活者の健康管理を目的とした指輪型のウェアラブルデバイスです。心拍数や体表面温度、活動量といったバイタルデータを測定し、生活習慣や睡眠の質改善に役立てます。dヘルスケアを筆頭にヘルスケアビジネスにも注力しているNTTドコモやNTTグループ各社は、SOXAIがもつ睡眠データに着目。両社が連携することによるお客さまへの新たな価値創出へ向けて、さまざまな検討を進めています。
NDVはSOXAIのどこに魅力を感じたのか、両社の共創内容は。SOXAI代表の渡邉達彦さんとCOO/CFOの光頼篤樹さん、NDV投資担当の今井康貴に聞きました。
日本発、世界最小の健康管理用スマートリングを開発
── SOXAI RINGについて教えてください。
渡邉(SOXAI):
SOXAI RINGは、日本発のバイタルセンシング機能を搭載した健康管理用スマートリングです。幅7.6mm、厚さ2.5mm、重さ2〜3gと世界最小(※)のプロダクトとなっています。
渡邉(SOXAI):
SOXAI RINGを使えば、装着者の負担なく心拍数や心拍変動、血中酸素レベル(SpO2)、体表面温度、活動量などのバイタルデータを高精度で測定できます。得られたデータは独自のアルゴリズムで分析され、睡眠や活動、ストレスの状態がアプリ上でスコア化。これにより、ユーザーは自分の特性に応じた生活習慣や睡眠の質を改善する手助けを受けられます。完全防水・防塵仕様で、風呂やプールでも使用でき、洗濯機での洗濯にも耐えられる仕様です。電池は最大8日間(※)保ち、約1.5時間で充電可能です。アクセサリーとしてのデザイン性にもこだわっていて、幅広い年齢層のユーザーに支持されています。
── 機能は順次追加・アップデートしているのでしょうか。
光頼(SOXAI):
はい。例えば2024年10月には、睡眠時の血中酸素レベルの変動を検出する機能をリリースしました。睡眠時に呼吸が止まった回数をカウントして、それに応じて無呼吸の度合いを判別します。
光頼(SOXAI):
睡眠時無呼吸症候群は国内だけでも900万人の潜在患者がいると言われています。ただ、多忙でなかなか病院に行けない方もいるでしょうし、検査も大変です。自分にその可能性があると認識していていない方も少なくないでしょう。本機能は医療機器ではありませんが、睡眠時無呼吸症候群の気づきのきっかけになれば嬉しいですね。
渡邉(SOXAI):
睡眠時の血中酸素ウェルネス測定機能は、測定精度の高さと睡眠時の装着負担の少なさという指輪型デバイスの強みをフルに活かせる機能だと考えています。実は社内でも、この機能がきっかけで睡眠時無呼吸症候群が発覚して治療に至った社員が複数名いるんです。私もその一人で、無呼吸症候群の中等症で普段はCPAPという治療を行っていますが、SOXAI RINGの機能のおかげで治療の効果を日々モニタリングできています。
このような新機能開発に限らず、ハードウェアの設計改善やアプリ・アルゴリズムの改善などは現在の経営課題として、包括的に取り組みを進めているところです。
── スタートアップがハードウェアに取り組むと、やはり製品の品質が課題になるケースが多いかと思います。SOXAIはいかがですか?
渡邉(SOXAI):
大分改善を重ねているところですが、販売当初はBluetoothやバッテリー関連の不具合が少なからず発生し、お客さまにご不便をおかけしてしまいました。製品に満足いただけていないお客さまが相当数いる状況は、当然何とかしなければなりません。実際に今年の春からは経営課題として改善に注力していて、徐々に成果も見えてきているところです。
光頼(SOXAI):
発売当初はとにかくスピードを重視して、ひとつでも多く製品を売ることに注力したが故に、カスタマーサポートが追いつかないという側面はあったかもしれません。この点は真摯に反省して、しっかりお客さまをサポートできるように、順次体制を整えています。
渡邉(SOXAI):
カスタマーサポートの話だけでなく、例えば心拍や睡眠時間、中途覚醒といったアルゴリズムの精度にしても、もっと改善の余地があると認識しています。例えば、実験室での見せ方をそのままお客さまにお見せしたら、測定結果への誤解を生んでしまうケースもありました。不自然に感じないデータの表示やお伝えの仕方などのノウハウを貯めていくことが大事だと感じています。
今井(NDV):
お客さまとの向き合い方やカスタマーサポートという点からも、NTTドコモとしてサポートできる部分があるのではないかと思っています。ヘルスケアのサービス部門だけではなく、プロダクト部門などNTTドコモの他の部門も巻き込みながら、SOXAIの価値をお客さまに届けていくお力になれないかと考えています。
渡邉(SOXAI):
大手企業がコンシューマービジネスをする中で培ってきたノウハウの価値の大きさを、最近改めて感じています。ぜひ協力いただければ嬉しいですね。
── ところで、2024年12月現在の、国内外のヘルスケア系スマートリング事情を簡単に教えてください。
渡邉(SOXAI):
各国でビッグテックやスタートアップのプレイヤーが増えています。アメリカやインドでどんどん登場していて、中国では大量生産して安価なプロダクトを提供する会社も出てきました。フィットネス向けや女性の健康管理に特化している製品なども出てきて、市場自体はかなり盛り上がってきているように感じます。国内でも大手企業が実証実験を開始するニュースを出していたりと、注目度は上がっていますね。一方で「このプロダクトにしかない機能」といったものは多くなく、いわゆるUI/UXやアルゴリズム、アプリの品質といった部分での競争が激しくなっているように感じています。SOXAI RINGとしてはこの部分での競争力も上げていきたいですね。
評価されたのは、生産技術とスピード感
── SOXAIは2024年6月にシリーズAの資金調達を発表しました。NDVからも出資をしていますね。投資に至った経緯を教えてください。
今井(NDV):
年初にお会いした際にSOXAI RINGを手に取り、ヘルスケア領域における革新的な可能性を感じて、数ヶ月の検討を経て投資に至りました。NTTドコモはスマホやウェアラブルデバイスを使った健康管理に力を入れていますが、SOXAI RINGのように睡眠中も含めて違和感なく着用できるスマートリングはこれまで取り扱えていません。そのため日本発の健康管理用スマートリングとして既に実績を持つSOXAIには、大きな可能性を感じました。
今井(NDV):
一方、SOXAIはアーリーフェイズのスタートアップということもあって、品質や精度、安定性、販売チャネルの構築などにまだまだ課題があるのは事実です。ドコモグループとして、このような部分にも支援できることがないかと関連部門にも相談をしています。
光頼(SOXAI):
ちなみに今井さんは、SOXAI RINGと競合他社のプロダクトを両方装着されているんですよね。
今井(NDV):
SOXAIのポテンシャルは感じながらも、競合の動きも把握しなければいけないということで、自ら実験台になって2つ着けています(笑)。
しばらく装着してみた感想ですが、渡邉さんが先述した通り、ヘルスケアリングの基本的な機能はプロダクトも似通っています。ならば細かな精度が大事になってくるように思えますが、アプリの挙動や安定的な使用感でもプロダクトごとの差があるように感じています。私にとっては意外な発見でした。
── NDVを含め、SOXAI RINGは投資家からはどのような評価を受けているのでしょうか。
光頼(SOXAI):
実際にSOXAI RINGを手にとっていただいて、「思ってたより軽いし小さい」といった声をいただくことが多かったです。皆さんスマートウォッチは手にしたことがあるので、それと無意識に比較されていたように思います。
渡邉(SOXAI):
ある投資家からは、国内でサプライチェーンを築いて世界最小のプロダクトを製作したことなど、生産技術周りを評価いただいています。小さな電子部品を作り、それを防水性・防塵性を備えた小さな筐体に封入するのは、技術的にかなり難しいんです。「こういう作り方なら小さくできるはず」「こうすれば仕様を満たせるだろう」といった仮説を社内でいくつも立て、試作をし、メーカーに相談しにいきました。一般的なエレクトロニクス製品の作り方ではないので、同業他社が真似しようと思っても、簡単にはできないはずです。
渡邉(SOXAI):
また製品を開発してからビジネスの体制を整えるまでのスピード感も評価いただきました。ハードウェアをビジネスにしようとするとかなり時間がかかってしまうことは少なくないですからね。
今井(NDV):
確かに、SOXAI RINGは日本発のデバイスとして2023年に発売を開始して今に至っていて、そのスピード感はNDV内でも評価が高かったです。
SOXAIの睡眠データ×NTTドコモのデータで、新しいヘルスケアの未来は作れるか
── SOXAIとNTTドコモとの共創について教えてください。
今井(NDV):
NTTドコモは通信会社ではありますが、例えばスマホで歩数を測定してポイントをゲットする「dヘルスケア」のように、ヘルスケア関連サービスも提供しています。ドコモグループとしては企業向け健康経営サービスも展開していますし、NTTグループまで目を広げれば、さらに多岐に渡ったビジネスを行っています。
SOXAIへの投資に際しては、NTTドコモの様々な事業部とディスカッションを重ねる中で、ヘルスケア関連の事業部に限らず、他からも高い関心が寄せられました。NTTドコモとして新しいウェアラブルを考えていく上で、リング型デバイスは無視できませんしね。
今井(NDV):
NTTドコモからすると、SOXAI RINGで取得するバイタルデータ、特に睡眠データは非常に貴重なものです。そのため、単にデバイスの販売連携をするといった話ではなく、将来的にはお客さまに同意をいただいたうえでSOXAIが保有するデータとNTTドコモが保有しているデータを掛け合わせ、新しい価値を生み出すようなことも検討できるのではないかと考えています。
特にSOXAIは「日本発」という点が期待感を高めていると言えるでしょう。スマートリングという意味ではグローバルに様々なプレイヤーがいますが、国を超えてデータをやりとりすることは簡単なことではありません。SOXAIはデータ活用にも前向きに相談に乗っていただいているので、この共創を形にしていきたいです。
渡邉(SOXAI):
例えばdヘルスケアは、国内のヘルスケア意識の高い方々が使っているサービスです。そこに睡眠データなどを上手く連携させ、新たな価値を届けていくようなことができたらと考えています。今井さんが語ったように、ドコモグループは健康経営のサービスも含めて広く展開しているので、そういった面での連携も模索しています。
今井(NDV):
スマホから取得できるデータには限りがありますが、ウェアラブルから取得するものにまでデータの範囲を拡張できれば、その可能性はもっと広がります。SOXAIの持つ睡眠や心拍データを組み合わせることができれば、ユーザーの行動変容に繋げ、より健康になるようなアドバイスが実現できるはずです。そういった観点でもドコモは様々なパートナーを求めているところで、その1社としてSOXAIは貴重なパートナーになるでしょう。
── NTTグループ以外でも、共創の計画はあるのでしょうか。
光頼(SOXAI):
データに関して言うと、NTTドコモに限らず、睡眠関連の会社や保険会社、健康経営ソリューションを提供している会社、スポーツ関連、物流会社など、幅広い業種や業界が興味を示してくれています。例えばメディカル領域で事業展開しているある大企業は現在、未病・予防医療としてどのように潜在顧客にアプローチするかを模索されていて、その方法の一つとしてSOXAIとの連携を検討してくれているところです。
今井(NDV):
先ほど、睡眠時の血中酸素レベルの変動を検出する機能のお話もありましたが、SOXAIは現在こういった新機能開発にも積極的に取り組んでいますよね。新しいバイタルデータの取得という意味では、NTTドコモに限らず幅広い連携の可能性があるかもしれません。まだ世の中にない、新しいスマートリングの使い方にも一緒に取り組んでいきたいです。
渡邉(SOXAI):
「新しいバイタルデータ」はキーワードですね。これまでのデバイスでは取れない健康指標や、病気を発見するためのデジタルバイオマーカーのようなものを取得するといったことには、現在注力しています。
── 最後に、SOXAIの今後の展望を教えてください。
渡邉(SOXAI):
目下の目標は、国内外での販路拡大です。ヘルスケアデータを取り扱うという意味ではコンプライアンス的に海外展開は大変なのですが、特に東南アジア・アジア地域には進出したいですね。
今井(NDV):
冒頭にも話があった通り、スマートリングの市場は拡大していて、大手・スタートアップのプレイヤーが世界中で増えています。しかしSOXAIがこれまで磨いてきた技術やアルゴリズムなどは世界でも十分戦える余地はあると考えています。
光頼(SOXAI):
SOXAIは「ヘルスケアをライフスタイルに」というビジョンを掲げています。消費者の生活にリングが馴染んで、健康管理や健康維持の新しいスタンダードになってほしいという思いをこのビジョンに込めました。SOXAI RINGを新しいヘルスケアの形にしていくためにも、1人1個、指にSOXAI RINGを着けて健康管理をするという未来を築いていきたいですね。
── 渡邉さん、光頼さん、今井さん、本日はありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)